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新潟地方裁判所 昭和48年(む)6号 決定

申立人(被疑者) 小菅竹四

主文

一  新潟地方検察庁検事豊嶋秀直が昭和四八年一二月三日申立人に対しなした「新潟東警察署に身柄拘束中の被疑者小菅竹四に対する申立人の接見につき、その日時の指定を同月六日まで行なわない。」との処分はこれを取消す。

二  申立人の被疑者小菅竹四に対する接見の日時及び時間を「同月四日および五日の間に一括して三五分間もしくは同月四日、同月五日の二回に分割して合計四〇分間(ただし、上記の接見回数の選択および接見回数を二回とした場合の接見時間の配分((ただし、第一回目の接見時間は一五分を下らないものとする))ならびに接見開始時刻の決定((ただし、接見回数を一回とした場合の接見開始時刻は遅くも同月五日八時三〇分とする))は、いずれも検察官豊嶋秀直に委ねる)」と指定する。

理由

一  本件準抗告申立の趣旨は、「主文第一項同旨および申立人の被疑者小菅竹四に対する接見の日時および時間を昭和四八年一二月四日三〇分、同月五日三〇分と指定するとの裁判を求める。」というにあり、その理由の要旨は、「被疑者小菅竹四は、殺人・死体遺棄等の被疑事実により、昭和四八年一一月一六日逮捕され、同月一九日勾留され、その後勾留延長されて、新潟東警察署において現に身柄を拘束されているものであり(勾留延長期間満了日同年一二月七日)、申立人は同年一一月一八日同被疑者が選任した弁護人であるところ、右事件の捜査を行なつている新潟地方検察庁検察官豊嶋秀直は、同年一二月三日申立人が同被疑者との接見の申出をなしたことに対して、同月六日までは接見日時を指定しないと述べて申立人の接見交通の機会を奪い、申立人の弁護権の行使および同被疑者の防禦に著しい不便を強いている。豊嶋検事の右の刑訴法三九条三項の指定を行なわないで接見を許さないとする処分が違法であることは明らかであり、到底許容されるべくもないから、申立の趣旨記載のとおりの裁判を求めて本件準抗告申立に及んだ。」というにある。

二  当裁判所が新潟地方検察庁検察官検事豊嶋秀直および申立人に事情聴取した結果によれば、申立人が昭和四八年一二月三日豊嶋検察官に被疑者小菅竹四との接見の申出をなしたのに対して、同検察官は捜査の都合上同月六日までは刑訴法三九条三項の接見の日時の指定を行なわないと言明したことが認められるところ、これが同月五日までは接見は自由であるという趣旨ではなく、同日までは接見を拒否する趣旨であることは明らかである。従つて、かかる言明が申立人と被疑者小菅竹四との間の接見交通を規制する効果を持つ検察官の公権力の行使としての処分性を有していることは否定できないから、これをもつて刑訴法四三〇条一項にいわゆる同法三九条三項の処分であると見ることは何ら妨げないと解される。

三  そこで、次に右の如き同年一二月六日まで接見を拒否した処分が適法妥当であるか否かについて判断するに、刑訴法三九条一項は、身体の拘束を受けている被告人又は被疑者と弁護人又は弁護人となろうとする者との接見等が自由であることを規定したものであり、同条三項はこれに対する例外として、検察官らが捜査のため必要があるときに、同項但書の条件のもとに検察官らに右の接見等の日時、場所及び時間を指定することを認めた特則であると解される。そして同条三項が憲法三四条の弁護人依頼権に根拠をもつ同条一項の原則に対する例外であることに徴すると、同条三項はできるだけ限定的に解釈運用さるべきことは当然である。

四  ところで、本事件が世間を聳動させた重大事件であり、その事案の性質、証拠収集の困難性等に鑑みると、勾留期間も満了に近づいて来た現在において捜査も重大段階を迎えていることは推認に難くない。そして、日々の被疑者小菅竹四に対する取調べが相当長時間継続して行なわれこともある程度了解できないわけではない。しかし、このことはまた弁護人たる申立人にとつても同様の段階を迎えていることを示すものがある。すなわち申立人にとつて現段階は人権侵害の有無を監視し、また公判に向けての緊急な活動が要請される時であり、被疑者小菅竹四と接見を行なう必要性はきわめて高いといわなければならない。

五  しからば、現段階において申立人が被疑者小菅竹四と接見することは捜査に支障を来すと認められるであろうか。換言すれば、申立人の接見を拒否するだけの捜査の必要性が存するといえるであろうか。この点を解決するには、まず、刑訴法三九条三項の捜査官が接見の日時を指定しうる「捜査のため必要のあるとき」とはいかなる場合をさすのかを確定しなければならない。同項ができるだけ限定的に解釈されるべきことは前述のとおりである。そしてこのような趣旨よりすれば、右の「捜査のため必要があるとき」とは、原則的には現に被疑者を取調べ中であるとか被疑者が現に取調べ室に赴こうとしているとか捜査官の取調べと弁護人の接見が物理的にかちあつた場合をいうと解するのが最も妥当であり、弁護人が接見するとその後被疑者が取調べに対し黙秘し捜査が難渋するおそれが多いという場合などはこれに含まれないと解すべきである。しかして、かかる解釈を前提とする限り、仮に本件捜査が現在重大段階を迎え相当長時間にわたつて継続して被疑者小菅竹四を取調べる必要が高いにしても、検察官が申立人の接見を昭和四八年一二月六日まで拒否した処分の正当性の前提となる捜査の必要性が同月五日まで間断なく継続するものとは到底認められない。たしかに本件においては、すでにこれまで申立人は検査官から日時を指定されて五回の接見を行なつている(これは従来取り沙汰されてきた証拠収集困難事件においてなされているといわれる刑訴法三九条三項の運用よりみれば比較的弁護権に対し好意的な取扱いと思われる)。しかし、そうであるからといつて、さらに接見の申入れがあつた場合に本来自由であるべき接見を検察官が捜査の必要が終始あるとは認められないのに、数日先までの間拒否することは刑事訴訟法三九条三項の趣旨に反し許されないものといわなければならない。従つて、検察官豊嶋秀直が申立人に対しなした昭和四八年一二月六日までの間拒否した処分は違法失当であるからこれは取消さるべきであり、かつ申立人の接見希望の内容、捜査官の被疑者小菅竹四に対する取調予定の内容等を総合勘案すると右処分に替えて主文第二項のとおりの接見の日時、時間の指定をなすのが相当と認められる。

よつて、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項により主文のとおり決定する。

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